居場所

しばらく沖縄の離島に行ってました。

馴染みのゲストハウスのスタッフが変わってやや別物になっているのですが、すべてが変わるわけでもなくて、取り巻く環境はいつもどおりで、過ごそうと思えばいつもどおりに過ごすことは可能。

でも、やっぱり以前とは違ってしまって、次また行くかと言われたら、少し迷うような状況です。


変わったのは、まず僕と、宿の関係者との距離感。

足繁く行き過ぎて僕はもはやあまり客の扱いをうけず、スタッフを経験したこともあるから体の良い穴埋め要因にされることが多々ありました。

「買い出しのために少し宿を空けたいんだけど、その間、接客を頼めませんか?」

みたいな。

この宿は基本ワンオペで動いていて、客が途切れない限りスタッフは連勤が続きます。

昨年のスタッフに聞いたときは150連勤とか言ってたような。

今のスタッフは海外留学先で出会ったオーナーにこの島の名前さえ知らない状態でスカウトされて連れてこられ、この島の仕組、しきたり、狭いがゆえの人間関係等なにも知らされずに契約をしてしまったようでした。

オーナーは良くも悪くも自由な人だから保守的な島の人々からは蛇蝎のごとく嫌われていて、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い人たちからは宿とスタッフも自動的に嫌われて日常のすべての行動が動きづらく、でもそれに気づいても一年契約で逃げることもできなくて、かなり追い詰められた状態で勤務を続けています。

そこに僕のような一見オトナで話を聞いてくれて、そのうえ元スタッフだから頼めば業務もできるなんて人材が長期滞在していたら、甘えないほうが難しいくらいの状況だと思います。だからその甘えを甘えだとわかっていながら受け入れていました。

かつ、その甘えを拒絶したときにこの青年の態度が悪くなるであろうこともなんとなく予想できたのでそれもめんどくさくて、結局滞在中ずっと甘えを許容して過ごすこととなり、その部分では僕自身がまあまあのストレスを貯めるはめになりました。

そんな状況はオーナーの目に留まり、来年契約を更新しないという意思表示をしたその青年の代わりに僕がやってみないかという話を持ちかけられ、滞在最終日にはオーナーの半生の自分語りとスタッフ契約のお誘い及び説得を9時間ぶっ通しで続けられるなど、これまたストレスを貯めるはめになりました。

そしてもうひとり、昨年のスタッフ。実質クビになってこの宿を離れたけれどもオーナーや現スタッフと付き合いはあって、たまに宿にも出入りしつつ島で暮らしていて、オーナーや現スタッフに言いたいことはあるけどクビになった身で誰も聞いてくれない中、現状すべての事情を知っていて、かつ人畜無害なのが僕なので、その人の相談を毎晩僕が電話で聞くはめに。

という、オーナー、現スタッフ、元スタッフの三すくみのような状況で、それぞれの愚痴を僕が聞かされ、聞いた以上は少しでも、綻んだところを改善できないかという思いで間に立って話してみるも、いがみ合ったフィルターのかかった状態ではまともに届くはずもなくて余計なお世話どまり。


そして、ゲストハウスの雰囲気も変わりました。

一言で言うとパリピ御用達の宿、に様変わりしていました。

現スタッフの青年はイケメンで、男にとっては悪いやつではないけれど女性に対してはほどほどにクズで、女性客が可愛いと必ず連絡先を聞くような男。

別にそれ自体は本来単純に悪いこととは言い難く、実際それを望んで来ている女性客も意外といるし、なにより彼がイケメンであることで、それに口説かれることもそんなに悪くないという判断に落ち着くことは多かったみたいです。

そして男性客はそれに乗っかって一緒にそれを楽しめる人だけが楽しめるような構造がひっそりと出来上がっていて、そこにあまり乗り切れない人は自然と少し外れてしまう。

総じての結果としてお客さんが楽しむための宿ではなくて、彼の感じている退屈で閉塞感のある日常に楽しさを与えてくれるお客だけを贔屓して楽しませる宿、という形になってきてしまっていました。

夕方に宿の車で夕日を見に行ったり、その日の宿泊者でなんとなくお互い話して一緒に御飯を食べに行ったり、宿主催の飲み会でみんなで気ままに話したり、天気が良ければその場のみんなで星を見に行ったり、そんな、本来その宿で提供されていた様々な楽しみが、彼を取り巻く輪に入る、要は彼を持ち上げることでしか提供されない、そんな選民が行われているような印象を持ちました。

まあでも「ゲストハウス」なので、ホストが好きなように宿の雰囲気を作って泊まる方もそれを楽しみにして泊まるのが一般的なあり方で、それでいうと彼を中心としたハーレムとでも言うような状況を彼が望んでいるならそれも仕方のないことだけど、でも例えば僕のような閉鎖的で排他的な人間でもその中に楽しさを見出してなにか変わったりするきっかけはもう失われてしまっていて、

「ゲストハウスなんて初めて泊まったけど案外いいよね」

って人を許容できる宿ではなくなってしまいました。

そこに、僕が島にハマったときに感じた「多様性を受け入れる懐の広さ」というか「世の中ほんといろんな人がいるね」はなく、「飲み会での立ち回りの上手さ」や「相手のことをあまり考えず人に話しかける押しの強さ」が楽しめるかどうかの分水嶺になっていて都会の人付き合いともう何ら変わらないじゃんと思うし、それを苦手とする人が訪れると終始疎外感を感じて終わってしまう、その現状をとても残念に感じました。


知らない方と接して自分の知らなかった世界のことを知るのは僕の旅の楽しみの一つですが、それが自由な双方向ではなくてスタッフの彼を中心としたヒエラルキーからのトップダウンとなってしまうことは僕の旅の楽しさを大きく左右してしまいます。

写真を撮ることに関しても、お客さんでモデルをお願いしたくなるような方が来ても僕が自然と仲良くなることはなくなりました。なんたって可愛い子は彼が全部持っていきたいわけで、来た瞬間から全力で口説いて夜の食事とかに連れて行ってしまうので、写真を撮らせてほしいと交渉するどころか、下手すると会話する隙間もありません笑

島で一番可愛くてみんなが仲良くしたがっているカフェ店員にも裏ですでに手を出していて、地元に彼女がいるにも関わらず当人にはそれを隠して彼女扱いし、僕ら一般民が彼女と少しでも仲良くしてると俺の女感を出してそれを咎めてきます。

その女性に関わってる全ての男に関して「あいつ○○ちゃんのこと狙ってんすよ」と僕に愚痴ってくるのは結構めんどくさい笑 おまえもだろうがよっていう。


旅先で誰かと出会って思い出を作ること、中でも異性と仲良くなったりはとても楽しいことだと思います。その結果特別な関係性となるのも、それが一期一会であったりすることも含めて楽しみの一つであることは全然否定はしないです。

でもヤリモクで男同士がしのぎをけずって誰があの子落としたみたいな世界に巻き込まれるのはちょっとヤダし、もうそんなことを必死でやるような年齢でもキャラでもない。(そもそも年齢関係なくそんな世界で生きてないけど)

結果、僕は彼の作る輪からはちょっとだけ距離をおくこととなり、でも彼から慕ってもらってる面もあって彼の方からは距離を詰めてくるから、結果便利さだけを搾取されるという展開になりがちです。


彼が来てくれたことでこの宿が維持されているからそこに感謝をしつつも、彼がこの宿を再構築したことで僕がこの宿に通うことで感じていた様々な楽しさが歪んでしまったような気がしていて、少し寂しいです。

諸々考えると、この宿に行くモチベーションというか、あの島に行く意味がなくなってきてしまっていて困りました。

自分が素直に楽しいと思える、やっと見つけた居場所だったのに、結局それは失われてしまったのか、という思いと、また、「クラスの陽キャ」的な人の美味しいとこ取りの行動にそれをぶち壊されるのか、と思うと、世の中不公平だよなあ、と思ってしまいます。