沖縄に頻繁に行くことで少しずつ人脈というか知り合いも増えてきて、僕の写真撮影に協力してくれる女性も増えてきた。
今回少し長めに沖縄滞在をした際、成り行きで一人のモデルの女性と宿をともにすることとなり、結果3泊4日の間、べったりで行動をともにすることになった。
最初さすがにちょっとまずいかと思ったけど、本人に聞いたところ全くそんな変な気は無く、写真を撮られたいだけであり、僕のことは年齢的にも、タイプ的にもありえない、なに言ってんだくらいの勢いで完全にその手の色っぽい話は拒絶された。
そこでまあ安心?してその方と3泊4日をともにすることを決めた。
ところが2日目の夜、夜中に目が覚めたので散歩にでも行くかと部屋を出ると、僕の部屋の向かいのドア、すなわち彼女の部屋のドアが開いていてそこに彼女が佇んでいて、
「起きてたんですか?」
と言ってきた。
「いや、早くに寝てしまったから目が覚めてしまって。散歩にでも行ってきます」
と行って通り過ぎようとすると
「風が強くて眠れないから、私も行っていいですか?」
と言って、彼女は僕の散歩についてきた。
そのとき滞在していた離島は集落を離れると街灯一つなく、本当の漆黒になるので、星明かりで目が慣れて歩いている僕と裏腹に彼女はずっと怖がっていて、自然と手をつないで歩いた。
その後、星を見ながら色んなこと、それこそ最近のセックスの事情まで彼女は語り、僕も、最初に守備範囲を大きくハズレていることを明言されていたことが逆に後押ししてか、もしくはお互いの顔が確認できない程度の暗闇だったからなのか、ある程度深くて具体的なところまで赤裸々に彼女に語った。
明け方が近くなってきたので帰ることを促して宿に向かい、もうすぐ宿につく数十メートル手前くらいで彼女は立ち止まって
「ハグくらいしときますか?」
と言って手を広げてきた。
僕はぎゅっとハグをして、一旦離れると、今度は彼女の方から抱きついてきて、そのまま少しの間抱き合っていた。
それがすごく可愛くて、僕が男としては対象外と言われたことも一瞬忘れて、僕は髪を撫でて、勢いで軽いキスをして、離れて、別れて部屋に戻った。
部屋に戻って10分程度経ったときドアがノックされて、開けると彼女が立っていた。
「入ってもいいですか?」
と言うので招き入れ、そのあとは想像に難くないと思う。
次の日の朝、まだ旅は1泊2日残っていて、その宿をチェックアウトしようかとロビーで待ち合わせた彼女は元の彼女で、昨日一晩の諸々は、どうやらなかったことになっていた。
どうして彼女がそういう行動に至ったのか、事後に彼女に説明を求めても、ああいうのは成り行きだからそうやって蒸し返すのやめてくれ、との一点張りで何も教えてはもらえなかった。
そしてそのまま旅を続けて1泊2日を過ごし、空港で彼女とただの知人として別れ、写真や動画の現像をして渡し、彼女との関係はそれで終わった。
でもこの旅の前までは僕が昨年撮った写真だったLINEのアイコンと背景は、僕が今年撮ったものに差し替えられているので、彼女にとっても悪い思い出にはなっていないのだと思う。
僕はやや情が強めの人間で、少しでも関わった人間のことがすべて気になってしまって、ましてや深い関係となった人のことなんてとても大事にしたくなってしまうんだけど、彼女はそれを一切求めず、いわゆるワンナイト的な関係を初めて他人と結んだ形となった僕は、自分の中になかった価値観に、かなり戸惑っている。
肉体関係なんてその場限りで終わるものという価値観が存在することは知っていたけど、それに自分が巻き込まれるなんてことは想像もしなかったし、巻き込まれたとしても何らかの関係性の変化は生まれるものだという思い込みがあった。
本当に、その日にそういうことを単にしたかっただけで、手近な相手が僕しかいなかったから生理的に問題ないから僕でいいやと妥協した、という解釈がすごく妥当かもしれなくて、若い人の間ではそれなりに存在する関係性の在り方なのかなと考えると、やっぱり歳をとったなあと思うし、時代は変わっていくんだなあと思う。
結果、愛情をそれほど伴わない肉体関係というものに初めて触れた体験となった。男としてそういった関係性にどこかで憧れのような気持ちがあったのは否めないけど、実際にそれを目の当たりにしてみると、なんだかもやもやしてしまって、不思議な気持ちのまま、ここ何日かを過ごしている。
そうなってしまうことの是非はともかく、結果そうなってしまった以上、彼女のことを好きだと言って彼女を大切にすることを許される権利がほしくなってしまうし、彼女が僕のことを好きになってそうなったのであってほしいと感じてしまう。
でもそれらはすべて、期待すること自体がナンセンスらしく、そういう在り方をすごく難しく感じるのは、僕が古い昭和の人間だからなのかもしれない。
「来年の今頃また沖縄に来ると思うから、そのときにまだ彼氏がいなかったらまた一緒に旅しましょう。LINEのアイコンがあなたが撮ったものではなくなってたら、彼氏が出来た合図ってことで笑」
なんて彼女は言い残して去っていったけど、そんなの社交辞令でさえ無い、刹那的な思いつきのこの場での洒落た物言いで、期待するべくもない。
たとえLINEのアイコンがずっとこのままであったとしても、それが彼氏が出来ていない保証になるかと言えば別にそんなこと実はどうでもいいんだろうと思ってる。
でも昨年彼女を写真に撮ったときに彼女が「来年は波照間で私と亀を撮って欲しい」と言ったその言葉は今年ちゃんと実現した。
刹那を生きている分、彼女の言葉ひとつひとつはその瞬間でとても正直なものなのかもしれない。
だから来年の今頃、彼女に彼氏ができていないことを願ってしまうんだけど、それはさすがに彼女に不誠実かもしれないと思う僕は、やっぱり、ある意味真面目すぎて面白みがないのだと思う。そもそもこんなことしといて真面目もクソもないけど。
とにもかくにも、セックスが恋愛と密接で、ある意味恋愛のゴールであった時代はとうに終わっていて、でも全く無関係でもなく、ひとつの要素になっているのだということを思い知った経験となった。
たぶん、楽しかった。